関節拘縮って何?

臨床現場で、訪問マッサージの医療保険の対象となる半数以上の患者様には関節拘縮が認められます。

では、関節拘縮とはいったい何なのでしょうか?筋肉が固まってしまった状態ですか?関節が動かなくなってしまった状態ですか?ROMが正常ではなくなってしまった状態ですか?強直と拘縮との違いは何ですか?あなたはすぐに答えられるでしょうか。

あはき師養成学校では柔道整復師、理学療法士や作業療法士のリハビリ職の医療従事者と比較すると関節に対しての勉強は圧倒的に不足しています。充分に知識がないことを自覚せずに在宅の臨床現場に出ている施術者がいることも事実です。私自身もそうでした。弊社スタッフ、鍼灸師・あん摩マッサージ指圧師のあなたにプロフェッショナルとして関節拘縮の知識を今一度問うきっかけになりましたら幸いです。

目次

定義と分類

定義

関節拘縮の定義は提唱者によって異なります。

  • 「拘縮とは、関節自体あるいは、その周囲にあって関節を支持している結合組織いわゆる筋、腱および関節包などが短縮した状態」という定義 拘縮が結果としてなるという理論。
  • 「筋、腱、靭帯、関節包などが本来もっている弾性を失った状態を指し、他動的な伸張によっても正常の長さにならないこと」という定義 拘縮が原因としてなるという理論。
  • 関節の可動域制限は、病理的変化の起こっている部位の相違により、拘縮と強直に分類される。 両者には明確な区別がなされていない。

分類例1

拘縮を皮膚、筋肉、神経などの関節構成体以外の軟部組織の変化によっておこるパターン
強直を関節端、関節軟骨、関節包、靭帯などの関節構成体そのものの変化によっておこる。強直はさらに線維性、軟骨性、骨性の強直に分類される。

分類例2

拘縮を関節包や靭帯を含めた軟部組織の他動的な運動制限全般とし、関節相対面の癒着により、他動的に関節が動かなくなった状態のみを強直とするパターン。

分類1、分類2ともに運動性の残存程度によっては完全強直と不全強直に区別される。

関節可動域制限の原因が一次的には関節包外の軟部組織であっても、不動(長期臥床や麻痺等)が長期に及べば、二次的に関節構成体そのものに病変が認められ、線維性癒着や骨性強直に至る進展過程をとる。

この過程は、

  • まず第1に不動により局所の循環障害が発生し、
  • これにより関節内血管にうっ血うっ滞が生じるため、
  • 血管周囲の軟部組織に浮腫が生じる。
  • そしてこれらの軟部組織の細胞浸潤を招来し、線維素の析出、結合織の増殖、関節腔の狭小化を引き起こす。
  • さらに関節内圧が上昇し関節液の吸収速度が遅延するため、軟骨の変性と壊死を生じる。

拘縮の分類と病態

関節性、軟部組織性、筋性の3つのパターンで紹介する。

関節性拘縮

構造変化

関節構成体の軟部組織(滑膜、関節包、靭帯など)が、炎症や損傷によって短縮を生じたものである。手術後にみられる関節線維症も関節性拘縮の範疇に属すると考えられる。関節包のパターンは下記の記事の表参照

生化学的変化

関節性拘縮における関節周囲組織の生化学的な変化は、コラーゲン代謝の増加、そしてそれによるコラーゲン線維の産生増加と架橋の乱雑な配列であるとされ、コラーゲン線維間の基質であるプロテオグリカン含量は減少し、これは関節の硬化を導く。

軟部組織性拘縮

関節周囲または表皮、腱膜などの軟部組織に由来する拘縮は、コラーゲン線維の短縮、乱雑な配置、架橋の増殖によって生じる。関節包の癒着や短縮に起因する拘縮とは対照的に、軟部組織性拘縮では、通常一方向のみの運動が制限される。熱傷による瘢痕拘縮や、手掌腱膜が結合織性に収縮して手指の屈曲制限をきたすDupuytren拘縮などがこの範疇に属する。

熱傷

在宅現場では症例として少ないため省略する。

筋性拘縮

筋性拘縮は、内因性または外因性の原因による筋の短縮をいう。

  • 内因性変化…構造的なもので、筋肉の炎症、虚血、変性、外傷とこれらに関連した出血によって筋組織の構成体に再構築が起こる結果として生じる。
  • 外因性拘縮…神経学的異常や力学的因子の影響による二次的な拘縮である。弛緩性麻痺や中枢神経系の解放現象である痙性や力学的因子が含まれる。末梢神経麻痺では麻痺筋と括抗筋である非麻痺筋との筋力不均衡により括抗筋の短縮が生じる。

結合組織の形態と機能

拘縮の病態を把握し有効なマッサージや徒手療法を実施するためには、生体の結合組織の形態とその機能を十分に理解しなければならない。

不動による結合組織の生化学的変化

組織不動の結果
滑膜関節腔への線維脂肪結合組織の増殖
軟骨軟骨表面への線維脂肪結合組織の癒着
軟骨の厚さの低下
圧迫が加わった際の接触部位の圧性壊死
靭帯原線維と細胞の平行な配列の解体
靭帯付着部位骨へ付着している靭帯線維の破壊
海綿、皮質骨の骨粗鬆症化

長期不動による滑膜関節の組織学的変化

組織結果
コラーゲン重量約10%減少
新陳代謝の増加
解体率の増加
合成率の増加
変形可能なコラーゲン架橋の増加
GAG総合GAG20%減少
ヒアルロン酸40%減少
硫酸塩化GAG20%減少
水分量3~4%減少

不動による結合組織の変化

不動

細胞構成

基質とコラーゲンの反応

組織の反応

可動域の減少

不動解除後の運動による変化

不動に対して、不動を解除した後の運動による結合組織の変化については細胞、基質、組織のように説明されている。

細胞レベル

運動によってGAGの産生が刺激されている間はコラーゲンの合成と解体が持続する。

基質レベル

不動の間に失われた構成要素である水分ならびにGAGの増加がみられる。これによってゲル・線維比は正常に戻り、コラーゲン原線維の潤滑作用、線絶間距離は増加する。こうした回復の速度は、不動によって潤滑作用や線絶間距離が失われていく際の速度より速いといわれている。このような生化学的・生体力学的な結果は、良好な修正がなされていることを示している。すなわち基質の構成要素が増加するにつれて、関節拘縮は改善されていく。

組織レベル

運動に伴って新しいコラーゲン原線維が加えられる伸張ストレスの方向に沿って組織化されていく。筋節の数と長さが適切に修正され、長さ-張力関係が再確立される。これらの変化によって関節可動域は増大し、関節のメカニクスは正常に復帰する。そして正常な運動機能と動作を回復させることになる。

加齢による変化

加齢(老化)によって結合組織の柔軟性は低下する。高齢者では腱、関節包、筋の総コラーゲン含量ならびにコラーゲン原線維の直径は増加し、コラーゲン原線維の安定性は増加する。

まとめ

拘縮の問題点を教えてください。また、どのように対応すれば良いのですか?

関節拘縮は身体の代償機能を破綻し二次的な障害の発生要因ともなる。

長期間の臥床による廃用症候群の一つとしてみられる関節拘縮は、局所的な機能障害だけでなく、全身の不活動性(寝たきりや歩行困難、歩行不可、麻痺)の結果としてとらえ、全身的な活動性を高めることが重要である。

関節の支持機能低下やアライメント不良を代償した結果発生している関節拘縮では、その改善が逆に動作能力の低下につながることがあり、身体運動を総合的に捉える視点が必要である。

私達あはき師の役割 関節構造や筋の解剖学的特性、結合組織の特性などの基礎医学の知識を改めて専門職として理解した上で、再現性のあるマッサージ、鍼灸、筋膜リリース、運動法、AKA、モビライゼーション、変形徒手療法、機能訓練、リハビリテーション等の施術を行う必要がある。断固としてリラクゼーションではないし(リラックス効果はあくまでも副交感神経系が優位になる副産物であってそれが目的ではない)、モミモミしているだけではない。その事実をプレイヤー同士はもちろん、患者様やご家族に、あるいはケアマネジャー様や主治医、介護職員様に施術結果と説明や報告書で継続して伝え、時には行政の後押しを受け理解して頂く必要がある。

引用

諸先輩方から頂いた文献、リハビリ資料(PT/OT/柔道整復師/鍼灸師)
矢野 唯

諸先輩方から頂いた資料をベースに在宅医療で適正がある箇所を抜粋して引用し出典させて頂きました。

22歳の半年程、私は訪問マッサージという在宅医療においての関節拘縮を患う患者様に徒手療法が介入する意義がわからず、臨床に疑問を懐いていました。もちろん会社は初任者研修もフォローアップもしてくださいました。ですが、私にとっては表面上で、腹落ちした解答をくださる技術者はいませんでした。なぜこの業が医療保険を適用して行う必要があるのか、悩みながら仕事をしていました。

きっと10代から20代で本気で徒手療法を行ってこれで食べていく覚悟と信念をもった技術者は、たくさんの葛藤や悩み、時には涙を流し、トップダウンでやらなければならないこと、だけどなぜそれをやる意味があるのか、自分たちの仕事は目の前の患者様に必要とされているのか、何のための手なのか、揉んどいたらええだけながか、そんな疑念を周囲に話しても理解してもらえない。そんな時期が波のようにあるはずです。

拘縮の記事を書いたのは、文献も読み漁ってセミナーにも行った、会社の研修にも参加した、だけど腹落ち感がなかった、納得できなかった当時の私のようなあはき師の糸口になりたいという想いからトピックをたてました。ただのおせっかいです

療術業は本当に青天井です。あはき施術者管理者研修でも、臨床現場でもプロフェッショナリズムを問われます。

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